SPECIAL

特別企画 第二弾
セバスチャン・ミカエリス役 立石俊樹
×
葬儀屋役 上田堪大
想いを背負い、全力で挑めるよろこび

シエルと共にフロントに立つセバスチャン・ミカエリス役の立石俊樹さんと、物語のゲームチェンジャー的な役割を担う葬儀屋役の上田堪大さん。2009年から始まったミュージカル「黒執事」シリーズの歴史を引継ぎ、コロナ禍の中で上演された初演を越えて――今、お二人の再演に懸ける想いを伺いました。

一新されたキャストに高まる期待

――まずは再演が決まってのお気持ちから伺えますか?

立石とても嬉しかったです。シエル・ファントムハイヴ役の(小西)詠斗と僕たちの3人は継続ですが、それ以外は新キャストで、再演とはいえまた新しい作品を作るような、そういう気持ちで新たに臨めるなと。今は初演を通して感じたものを改善したい、より上を目指したいことがたくさんあって、ある意味リベンジ作というか、何かそういうふうに僕は捉えています。

上田僕も本当に素直に嬉しいっていう気持ちです。前回はやっぱりコロナ禍っていうことで制限があったと思うんですが、それもなくなって、劇場も初演に比べて大きくなりますし、また違ったものをお届けできる――最大限の力を出してみんなが挑めるんじゃないかなと思っていて。そういう意味で高まる気持ちがあります。とにかく楽しんでいきたいっていう気持ちが強いですね。

――初演から新たな顔ぶれになります。

立石僕は共演したことがあるのが、グレゴリー・バイオレット役の定本楓馬くんだけ。それと以前からしっている、エドガー・レドモンド役の神里優希くん。あとはもう僕は初めての方ばかりなので、どういう稽古場になるか今から楽しみですね。

上田僕も共演したことがあるのは、楓馬と神里優希、そしてヨハン・アガレス役の伊藤裕一さんだけ。それと、僕が声だけの出演で参加した舞台に出ていたソーマ・アスマン・カダール役の伊勢大貴くんくらいで、他のみんなは初めましてですね。僕らは続投させてもらっているからこそ、役に向けての芝居の当て方というか、どういう風にみんなが演じて来るんだろうというのは、ちょっと楽しみにしています。

――お二人とも共演経験があるのは定本楓馬さん。

立石バイオレット、とても似合っていますよね。

上田でも、僕が知っている楓馬の感じって、バイオレットとは全然違うから、何かやってくれるんじゃないかってすごく期待してる。

立石内に秘めている芝居ごころみたいなものがすごくある役者の一人だと思うから、楽しみですね。

一瞬で魅せていくオープニングで

――2021年の初演についてもお伺いしていきたいんですが、お二人のお気に入りのシーンは?

立石自分の中で大変だったということも込めて、今までのミュージカル「黒執事」の印象的なシーンをピックアップして歴史を辿るオープニングです。これは僕だけじゃなくて、シエルも、そしてあの場面で出演されているキャストの皆さんもそうなんですが、その一瞬で表現しなければいけない難しさと、体力も相当使うので、今思い出しても「またできるかな……⁉」と思うくらいキツかった印象があります(笑)。だからこそ寄宿学校編以前の事件をちゃんと観客の皆さんが振り返ることができるように、より繊細にお芝居を強めてやりたいなと思いますね。

上田オープニングの自分の緊張した面持ちといったら、これ以上のものはないですね。ダイジェストとはいえ、やっぱり、今まで演じられてきた方々の作品を断片的にでしか表現できないと考えると、それこそ責任は重くありました。僕としては、この寄宿学校編では演じることができない、今までの葬儀屋を演じられたということはありがたかったですね。

立石最近、映像を見返した時に思ったんですが、そのオープニングの次のシーンに当たる「Perfect Black」から寄宿学校編が始まって、一気に全キャストが登場するところに、いよいよ始まるワクワク感がすごくあったんですよ。公演中は「よし!始めるぞ!」という気持ちの方が強かったんですけど、一人の観客としてならばここも好きですね。

上田僕は、見ていて楽しいと思うのは、クリケットのシーン。面白すぎて「ちょっと出させてもらえませんか」と(演出の)松崎さんに言ってしまったくらい。ダメでしたけど(笑)。そう思わせるくらい、みんながアグレッシブというか、本当に勝利のために汗水流してやっている。必死になって順番に出てくる中で、本当に一つずつバトンタッチしているのがすごく伝わってきて、見ていて素晴らしいなって。

――上田さんが演じる葬儀屋は、物語をガラッと変えるような重要な役割を担っていると思いますが、ご自分のシーンで印象に残っているところは?

上田お茶会の後のシーンは楽しいですね。無音になった間がすごく気持ちよかった……! そこからの一連のシーンはとても好きですね。それと、悪夢のシーン。この作品で唯一の原作にないシーンですが、そこは好きというよりは、どちらかというと観ている方に受け入れてもらうために、しっかり努めなければならないと。

――あのシーンがあることで、その後の展開が綺麗につながっていきますね。

立石コミックス4巻分くらいの物語を、3時間くらいのミュージカルにギュッと圧縮しながらも魅せるという、様々な演出と脚本の工夫がされていますよね。

上田だからこそ、責任を感じつつ大切に演じていましたね。

気持ちと音楽を埋めていく作業

――先ほど立石さんから「Perfect Black」のシーンについてお話しがありましたが、Yuさんの手掛ける音楽についてはいかがですか?

立石バイオリンなんですかね、「Perfect Black」で使われているその旋律が、なんだか“新しいミュージカル「黒執事」”っていう感じのする、今までにない音なんじゃないかなと。そしてその先には、ただただ本当に爽やかな曲もあったりして。そういう「黒執事」の世界観とは逆の性質を持った音楽が、作品とマッチしているところがとても素敵だなって思います。

上田同じミュージカル「黒執事」でも、寄宿学校編でしかできない音楽がYuさんの作ったものの中にはあると思うんですよね。例えば、P4が芝生に入る瞬間の曲であったり、それこそ真夜中のお茶会のときに流れる、ちょっと不穏な感じのする三拍子の曲とかはすごく僕の中でインパクトが強かったですね。

――歌う立場としてはいかがですか?

上田歌うのが特別難しいということはなかったですね。

立石うん。いい意味で。

上田Yuさんとはほかの作品でもご一緒する機会が多くて、多分僕らのことをすごく分かっているうえでキーを合わせて曲を作っていただいたりしていると思うんですよね。

立石ただ、より深い心情を表現するために声色を使って、キャッチーなメロディーラインに乗せる、というのが難しい瞬間があったりはします。「気持ちはこっちだけど、音色を選べばもうちょっとこっちの方向」っていう。そこを埋めていくのは難しかったな。そのせめぎ合いがあるからこそ、その日のライブ感で変わってくる面白さがあるのかもしれないですね。

その動作、相当意識してます

――ミュージカル「黒執事」には、衣裳のさばきや所作に独特なものがありますよね。

立石いやもう、それについては(上田)堪大さんでしょう!

上田本当にあんまり見えてないんですよ。光しか見えない。だけど、芝居で動く大変さが吹き飛ぶくらい、あの衣裳で殺陣をするのがものすごく大変。見えないし、あのデスサイズは実際に重いんです。指がつるんじゃないかと思うくらい。普段の殺陣で長物を回すことはあっても、それは薄くて幅があるので、デスサイズはちょっと扱い方が違ってきます。そういえば、右腕だけ筋肉が発達していたことを思い出しました(笑)。

――葬儀屋の人間ではない雰囲気も、どう作っているのかと思っていました。

上田本当にその雰囲気が出ているのかは不安でした。あるシーンでは人形のごとく微動だにしない、っていうのを結構こだわってやっていたりしていて……

立石その演技の選択って、ちょっと勇気がいりますよね。

上田そう。でも、楽しいですよ。想像を覆すというか。豪華客船編まで葬儀屋を演じられていた和泉宗兵さんとの違いの中で、僕が一番意識していたのはそれこそ動きの面だったので、どうやっていこうかとずっと考えていましたね。

――一瞬で場の空気を変えてしまう演技を今回も期待しています! 一方のセバスチャンは、執事としてシエルの身の回りのお世話をする所作が、見ていて本当に美しいですが、意識された動きなのでしょうか?

立石相当意識してます(笑)。松崎さんに最初に言われたのが、歩き方も含めて執事の所作の部分を完璧にしようということだったんです。執事としてご主人に仕えているというか、シエルを大切に扱っている、そういう部分をまずは完璧にしよう。そこから悪魔の部分を、という風に段階を上げていこう、と。

――シエルがちょっと上着を脱ぐ素振りをすると、セバスチャンの身体が反射的に動きますよね。

立石自分の身体にしみ込んでいる「いつもしていること」のような感じが出したくて。そこにセバスチャンがシエルの執事として過ごしてきた時間が表れると思うんです。あとは、自分の衣裳さばきとかではないんですが、冒頭のシエルとの契約シーン…早替えするシエルのためにマントをかける、あれが難しかった! 他のキャストが床に下ろしたものを掴んでシエルにかけるんですが、実は決まった部分を必ず持たないと綺麗にいかなくて。暗闇の中で瞬時にどういう状態で置かれているかを見極めて掴むという。これが上手くいかないとシエルの着替えが丸見えに(笑)。

上田一番大変な話じゃないですか(笑)。

立石シエルを演じている詠斗も「どういう状態でマントが来るんだろうか…⁉」といつもソワソワしながら、でも顔はポーカーフェイスで、みたいな感じでした。実際、足に引っかけてしまったときがあって、その時はちょっと拗ねてましたね(笑)。

上田まあ、シエルとしてね(笑)。

立石そう。「何やってくれてるんだ!」みたいな感じで。その表情も含め、思い出すと、「お互い頑張ったね」と思う。

上田セバスチャンの動きと言えば、あのナイフを構えたところもカッコいいよね。

立石本当ですか? でも、あれには綺麗に持てる仕掛けがあるから……

上田だけど、客席から綺麗に見えるようにするにはコツがいると思って。あのナイフの殺陣はいつもカッコいいな~と思って見てた。

立石ありがとうございます! あそこは体力面でもかなり勝負の時間なので、苦労してます(笑)。

“生執事”を感じるのはこれから

――ファンからは“生執事”と呼ばれて愛されているシリーズですが、出演してみて感じることはあったでしょうか?

上田僕たちにとっては前回が初めてで、そして、それまでの作風から一新していて。そこに今までの歴史の重みとか、それこそコロナ禍という制限があって、という重圧の方がすごく大きかった。今回の方が、気持ちとしては「よし!やってやろう!」っていう、今を楽しむ気持ちが強いのかなとは思うんです。

立石だから、答えるのが難しいですよね。

上田そう。寄宿学校編は豪華客船編までとは趣がちょっと違うから、原作とアニメ、そして今まで“生執事”をやられてきた皆さんにリスペクトは持ちつつも、全てを引き継ぐとか、なぞるとかは多分必要ではないと思ってるんです。今までの“生執事”をリスペクトしつつ、その歴史を作って来た先輩の皆さんの胸をお借りする気持ちで、僕らにしかできないものを楽しみにしてくださっているお客様にお届けすることで、今回が本当の僕らの“生執事”になるのかもしれません! もちろん、初演の出演者の想いも踏まえつつです!

立石やっぱり今までの歴史は意識しちゃいますよね。

上田やっぱり? そうだよね。

立石正直な話、このセバスチャンという役をいただいてすごく嬉しいって気持ちももちろんあったんですけど、それ以上に当時はネガティブな気持ちの方が大きかったんです。「いや~、できるのかな……」っていう不安だったり、「自分のセバスチャンはお客さんにどう思われるんだろうか……」だとか。でも、それは絶対に言えない、言ってはいけないと思っていました。今回はそんないろいろなことを乗り越えた上で臨むことができるし、新キャストも迎えて、本当に新しくまっさらな気持ちです。初演をリスペクトしつつ、前向きな気持ちの方が大きい状態で挑めるのかなと。

上田うん、前向きな気持ちが大きい。

立石ようやく、抗えないコロナ禍というものはなくなって。

上田そうだよね。多分そこが前向きになれた一番の要因なのかもしれないね。初演の稽古は、ダンスが大変なのにマスクをしながらで……

立石今回はそういった物理的なリミットがなく、全部出しきれる!という気持ちですね。

――それでは最後にファンの皆さんにメッセージをお願いできますか?

立石再演が叶って、続々と皆さんから嬉しい声のメッセージが届いて、その期待に応えたい一心で今はいっぱいです。僕自身の課題で言えば、役の解釈と表現を初演で到達できなかったところまで高めて、より伝えられるようにしたいです。新しいメンバー、そして続投する3人で、初演を超えられるような作品を目指していきますので、ぜひ楽しみにご来場いただければと思います。

上田初演をご覧いただいた方、そして、初演はそれこそ3年半前ということなので、今回初めてご覧になる方、そして、観たくても観られなかった方もいらっしゃると思います。お客様の中にもそういったいろんな想いがあって、僕らにもあって――いろんなものを背負って、初演メンバーのみんなにも恥じぬよう、一丸となって「寄宿学校の秘密 2024」をお客様に届けられたらいいなと思っています。ぜひ足を運んで“生執事”を生でご覧いただければ幸いです。

取材・文=沼田由佳  撮影=大塚浩史(DOUBLE SQUEEZE Inc.)

【立石俊樹】
ヘアメイク=中元美佳
スタイリスト=MASAYA(PLY)

【上田堪大】
ヘアメイク=mika
スタイリスト=MASAYA(PLY)