SPECIAL

特別企画 第一弾
セバスチャン・ミカエリス役 立石俊樹
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シエル・ファントムハイヴ役 小西詠斗
深みを増した新しい作品を目指して
“生執事”の呼び名で長く愛されるミュージカル「黒執事」シリーズで、2021年の寄宿学校編に続き、約3年半ぶりの再演にも出演するセバスチャン・ミカエリス役 立石俊樹さんとシエル・ファントムハイヴ役 小西詠斗さん。役柄のイメージとは反対に柔らかい空気をまとうお二人に、初演の思い出や再演への意気込みを伺いました。

二人だから乗り越えられた初演のプレッシャー

――再演が決まったときはいかがでしたか?

小西すごく嬉しかったです。3年半の間でいろんな舞台にも出演させていただいたので、その経験もふまえて進化したシエルを演じられたらなと思っているのですが、やっぱり心配なのは年齢ですね(笑)。シエルは13歳で、僕はもう24歳なので不安な部分もありますが、大人だからこそできる演技を見せていきたいなと思います。

立石詠斗とはこの3年半の間にドラマで共演していて、相変わらず可愛らしいところもありながら、生執事のときとはまた違った大人っぽい一面も見てきましたし、そういう経験の先にまたシエルを演じるっていうのは楽しみだなと思います。あとは旅番組も一緒にやっていて、おたがいにプライベートな部分もより深く理解してリスペクトできる、いい関係性を築けたんじゃないかなと思うので、それをセバスチャンとシエルの役づくりにも活かしていきたいですね。

――前回の生執事が舞台での初共演ながら、稽古開始早々に打ち解けたというお二人。葬儀屋役の上田堪大さんによると「稽古場ではオフになった瞬間、幼稚園児のようにキャピキャピ」されていたそうですね。

立石たしかに(笑)。やっぱり稽古場では二人とも責任をもって作品の真ん中にいる必要があったので、がんばったぶんの反動というか。稽古が終わったらその逆を行くっていうことができたからこそ、メンタルも保てたんじゃないかなと思います。切り替えようねって話をしていたわけではなく……

小西もう勝手に。

立石救いを求めてた(笑)。でも、なんとなく二人じゃないと口にできない悩み、みたいなものはおたがいに話していた気がします。

小西一回、二人で空を見ながら話しましたよね。もう無理かもなあ、みたいな。

立石そうだっけ? でもたしかに、詠斗がそんなことを言っていたのは覚えてるな。

小西やることがいっぱいあって、パンクしちゃってましたね。

立石僕も言わなかったけどパンクはしてましたね。ただ、これは勝手な想像ですけど、そういうことも想定内だったんじゃないかな、と思っています。(演出の松崎)史也さんもカンパニーのみんなも、そりゃあパンクするよね、って理解してくださっていたというか。だから嫌な意味でのプレッシャーではなくて、「きついけど、成功させてやろう」っていうマインドで果敢に取り組めました。

――松崎さんをはじめカンパニーの皆さんからアドバイスを受けたり、といったことは?

立石いろんな支え方があると思うんですけど、この作品では堪大さんや(初演・クレイトン役の古谷)大和さんが遠くから見守ってくれているという印象でした。アドバイスをしすぎると自信をなくしちゃうかも、とかいろんなことを考えてくださっていたと思うんですけど、僕から相談をしたときには一緒にアイデアを出してくださったり、よりモチベーションが上がるように気遣ってくださったり。とにかく皆さんの愛情を感じましたね。

小西僕は史也さんに本当にいろんなことを指導していただきました。まだまだ舞台でのお芝居について知らないことも多かったので、効果的な動き方や間(ま)の使い方、テンポだったり、発声の仕方にもいろんな種類があるということまで丁寧に教えていただいて、とても勉強になりました。

――あたたかいカンパニーですね。お二人がセバスチャンとシエルの関係性をつくるために意識されていたことはありますか?

立石詠斗とは年齢差もあるんですけど、ここはもっとこうしたほうがいいと思います、みたいな意見は詠斗からも出してくれたので、いい意味で対等な立場でお芝居をつくっていけたなっていう印象ですね。

小西それはあんまり覚えてないんですけど(笑)、でもとしくん(立石)が年齢差を感じさせない振る舞い方で接してくださったので、距離もすぐ縮まってすごくやりやすかったです。あと、僕は歌に苦手意識があったんですけど、としくんがよくアドバイスをしてくれたりして、そういうコミュニケーションをとるなかで自然に関係性ができていった気がします。

――お二人ともプレッシャーや課題を抱えながら取り組んでいらっしゃったとのことですが、それが手応えに変わったのはどのタイミングだったのでしょうか。

小西特に歌については手応えというわけではないのですが、としくんはもちろん、先輩方の歌を聴いたりコツを教えていただいたりして、生執事のおかげで歌がすごく好きになりました。それは自分でもすごく嬉しかったです。

立石僕も自分のなかでの手応えっていうのはなかったんですけど、とにかく自分なりのセバスチャンを突き詰めることを考えていました。それこそ寄宿学校編のエピソードはこれまでのミュージカル「黒執事」とはガラッと雰囲気が変わって、さらに全員が新キャストで挑むというところで、生徒役のキャストのみんながキャラクターを強く表現していたんですよね。特にP4(名門寄宿学校・ウェストン校に通う生徒のうち、4つある寮それぞれの監督生、“プリーフェクト・フォー”の通称)役の4人が、寄宿学校の煌びやかな世界と、その反対の暗い部分を引っ張ってくれていました。そういう新しい色を感じながらも、僕はこれまでの生執事の歴史を引き継いでいけるように、毎公演必死でした。手応えはわからないんですけど、でもとにかく自分なりのセバスチャンを探しながらやっていた感じですね。

お芝居とは正反対?な二人の関係

――初演を振り返って、特に思い出深いシーンを教えてください。

立石一番はオープニングでのセバスチャンとシエルの“契約”のシーン。檻にかかっていたマントでセバスチャンがシエルの体を隠して着替えさせるという演出なんですけど、マントの扱いが難しくて。どうやったらクリアできるのか、二人でいろいろ話し合いましたね。本番中もすごい緊張感のなか、よく乗り越えたなと思います。

小西あの早替えはすごく大変でした。そもそも舞台上での早替えがはじめてでしたし、首から下だけマントがかぶさっている状態なので、自分でもどうなっているのか見えないんですよね。手の感覚だけでボタンをぶわーって留めたりして。うまく着替えられなかったら変な恰好で出ることになってしまうので、すごく緊張しながらやりました。

――ではお気に入りの曲は?

小西やっぱりオープニングの、シエルが檻のなかにいるときにセバスチャンが後ろからバッと出てきてソロで歌うところは、舞台上で聴いていてもすごく好きでした。としくんは歌がものすごく上手なので、僕も客席のほうを向きながら、すごいでしょ~と思っていたのを覚えています。

立石可愛い。「すごいでしょ~」だって。

小西すごいでしょ~って思っていました。

立石可愛い。

――逆に大変だったシーンや、観ていて楽しかったシーンはありますか?

小西シエルは眼帯をしていて片目が隠れているので、遠近感をとらえるのが大変でしたね。それにヒールも履きなれていなかったので、ヒールで階段を駆け上がったりするのも最初は苦労しました。あとはもう、セバスチャンに命令したらなんでもやってくれるので、そこはすごく楽しかったです。

立石掃除とか片付けとかね。

小西としくんがいつも完璧にやってくれていたので僕はただ楽しかったですし、観ていておもしろかったのはクリケットのシーン。(初演・レドモンド役の)佐奈宏紀さんのアドリブを毎公演楽しみにしていました。

――公演を重ねるごとにアドリブや回替わりシーンも盛り上がっていきましたが、どんなふうにお芝居をふくらませていったのでしょうか。

小西いや、全然知らずにやっていて、僕らは勝手に巻き込まれてましたよね。

立石詠斗だけね。

小西えっ!

立石僕は一応、大和さんから事前に聞いてた(笑)。「こういう入り方でやってみたらおもしろそうじゃない?」「このやりとりでシエルが巻き込まれたら可愛いよねえ」みたいな感じで最初の流れだけ決めておいて、細かいやりとりはその場で生まれていくから、何も知らない詠斗のリアクションもふくめて楽しくやってました。

小西僕は毎回パニックでしたよ(笑)。いま思うとアドリブがすごく多かった気がします。特に大和さんは本当に毎公演、いろんなシーンでアドリブを入れてくるから、僕は一生こんなにうまくはできないだろうな、すごいなって思いながら見ていましたね。

――翻弄されるシエルの姿も可愛らしかったですね。ちなみに、お二人が寄宿学校の生徒だったら仲良くなれそうだなと思うキャラクターは?

立石僕はマクミランですね。

小西たしかに、ほかのみんなは個性が強すぎるからマクミラン以外はちょっと嫌かもしれない(笑)。

立石うん。成り上がるために人を陥れるキャラクターもいる作品だけど、そのなかでマクミランって純粋に優しくて悪気がない。

小西マクミランは一番いい子ですよね。

すべての表現で魅了する作品を届けたい

――再演でお客様に特に注目していただきたいポイントは?

小西初演よりアンサンブルの方の人数も増えたので、歌やダンスはすごく迫力が増すんじゃないかなと思います。あとは舞台上でクリケットをやるっていうのは生執事以外ではなかなかないと思うので、今回はどういう演出になるのか、どう表現するのかは楽しみにしていただきたいですし、僕自身もドキドキしています。

立石新キャストで挑むということで、P4や寮弟(ファッグ)たち一人ひとりの、初演とはまた違う役づくりに注目してもらえたらと思います。全体としては、詠斗も言ったとおりアンサンブルキャストが増えているので、バトルシーンでも敵が増えるかもしれないですし、そういう身体表現もパワーアップして、再演とはいえ新しい作品になると思います。

――お二人が再演にあたってチャレンジしたいと考えていらっしゃることも教えてください。

立石チャレンジしていきたいことはすごくたくさんあって、全部、もう全シーンですね。やっぱり3年半も経っているので変わるのは当たり前なんですけど、特にオープニング、これまでの生執事をダイジェストで振り返るナンバーでは、インパクトのあるシーンの連続をより印象強く表現できたらと思います。そのあとの「Perfect Black」から始まる寄宿学校編では回想を経たからこそ見えるもの、教師に扮するセバスチャンや、セバスチャンとシエルの寄宿学校編ならではの関わり方であったり、おたがいをどう認識しているのか、というお芝居の部分を膨らませたいなと思っています。そうすると歌もダンスも殺陣も全部変わってくるはずだし、やっぱりその根底の部分は特に磨く余地があるなと思っています。

小西僕もやっぱりお芝居の部分ですね。としくんとの関係値をふくらませてたくさん話し合って、より深みのあるシエルとセバスチャンの掛け合いができたらいいなあと思います。シエルの突き刺すような言い回しだったり、学校に潜入しているときの表の顔と裏の顔のギャップだったり、より鋭く表現したいなあと。歌も稽古場でいろんな表現に挑戦していきたいです。

――最後に、公演に向けてお客様へのメッセージをお願いします。

小西初演から3年半、いろいろな経験を経てレベルアップした僕たちと、新しいキャストの皆さんとで、フレッシュかつ深みのある作品にしていきたいなと思っています。演出もいろいろ新しく変わっていくと思いますので、初演をご覧くださった方にもぜひ今回の上演を楽しみにしていただけたらと思います。

立石生執事は、原作漫画が好きな方やアニメをご覧になっている方、普段からミュージカルを観られる方、そしてあまり観ないという方にも、ゼロ知識でご覧いただけるミュージカルです。僕たちのお芝居、そして歌やダンス、殺陣というすべての表現でお楽しみいただける作品をお届けしますので、ぜひ足を運んでいただけたらと思います。劇場でお待ちしています。

取材・文=榊 恵美  撮影=大塚浩史(DOUBLE SQUEEZE Inc.)

【立石俊樹】
ヘアメイク=中元美佳
スタイリスト=ホカリキュウ

【小西詠斗】
ヘアメイク=Hyo
スタイリスト=TAKURO